実際にあった軍隊の汚職事件を題材にした映画です。
軍の一級機密である不正を暴く主人公を『チャン・ヨンシル』で世宗役をしたキム・サンギョン、彼に協力する女性記者を『パンドラ~小さな神の子供たち』のキム・オクビンが演じています。
国益と言う名のもとの不正を堂々と暴く実録サスペンスは韓国映画ならではで、日本では絶対に制作さえ危ぶまれる題材を堂々と映画として残す潔さに感服します。
主役のキム・サンギョン自体が『殺人の追憶』『光州518』などの映画の主演をしているだけに、正義感の強いイメージがありますが、彼のそんなイメージを余すところなく作品に与えています。
陰謀術数渦巻く国家と、1人の軍人の死から不正を糺そうとする主人公の攻防は見ものです。
(画像はhttps://watcha.com/ko-KR/contents/mOgBDX9より引用)
『一級機密』あらすじ
望んでいた国防部への異動が決まり、軍需本部の航空部品購買課の課長に就任したパクは、過去の購買履歴から特定の企業との独占的な取引に気付く。
その企業の部品の欠陥を指摘していた操縦士カンが任務中に墜落事故を起こし、カンの過失として処理される。
パクは事故の原因を調べるため一連の疑惑を上司のチョンに報告するが、圧力をかけられる。シネマトゥデイより引用
『一級機密』見どころ
地方勤務をしていたパク・デイク中佐は念願の希望が通り、軍需本部航空部品購買課の課長に異動になります。
自分の希望が叶い、職場もアットホームな雰囲気で家族のようにしばらくは過ごしますが、そこには生真面目な彼が気付かない落とし穴が隠れていました。
国家の不正行為で奪われた尊い命のために、個人の正義感としてパクはただ1人で国家の陰謀に立ち向かいます。
暴かれる不正
自分では満足した家族ぐるみでの付き合いもできる職場での新生活はスタートします。
そこで、パクは過去の部品の購入履歴を見ているうちに、大手部品会社エアスター社からの購入代が破格の高値であることに不信を抱きます。
そんな時、パイロットのカン(チョン・イル)がエアスター社製の部品の欠陥をパクに訴えます。
自分たちパイロットの乗る航空機であるからこそ、自分たちの命のためにもっと安全な部品を使うようにと、真摯な姿勢で上申してきたのです。
しかし、そんなカンの訴えも虚しくカンの乗った航空機は墜落事故を起こしてしまい、カンはその事故により意識不明の重体に陥ります。
救える命を救えなかった悔しさと、腐りきった軍部の隠ぺい体質に、正義感の塊であるパクは彼らに戦いを挑む決心をします。
事故はパイロットの過失へと転嫁
軍の上司たちは、絶対にエアスター社の部品の欠陥としては扱いたくありません。
軍部とエアスター社の癒着が表面化してはならないからです。
軍の上司に幸いだったことはパイロットのカンが意識不明で、余命幾ばくもないという状況でした。
すべてをパイロットの操縦ミスとして、責任を今まさに危篤状態のカン1人に負わせることにしたのです。
国防のために自らを捧げて死にゆく者に賛美を与えることなく、不正の一端を担わすように事実を曲げて彼に無実の罪を着せてしまいます。
自らカンと会っているパクは彼の人柄に触れているだけに、その話を鵜呑みにすることはできません。
調べていくうちにますますエアスター社の部品の脆弱さが浮き彫りになってきます。
個人的にパクが調査した結果、次世代戦闘機導入に関与するエアスター社と米国防総省の間の秘密裏の計画をとうとう掴むことになります。
これは国の「一級機密情報」でした。
パクはその疑惑を上司に報告しようとしますが、逆に圧力をかけられて自分自身が潰されそうになってしまいます。
未だに生死の境を彷徨うカンの姿と彼の妻の姿に忸怩たる思いを抱いたパクはとうとう反逆の炎を爆発させ、マスコミに協力して不正を暴くことにします━━。
『一級機密』感想
この映画は「イテウォン殺人事件」の公開から7年ぶりの監督作品となるホン・ギソンの作品でしたが、作品を撮り終った数日後に監督は亡くなってしまい、遺作となりました。
重厚な内容のこの映画は私たちに正義とは何かを語りかけています。
実際の事件は20数年前に起きた事柄らしいのですが、現代風のアレンジはあるものの、忠実に実録という形で表現されていると思います。
韓国だけでなく、官民どこの国でも不正はあることでしょう。
それを娯楽としての映画作品としてではなく、社会派内容の映画としてとりあげて韓国で波紋を呼びました。
どんなに上官から脅されても屈しない鋼のメンタルで弱き者を助け、強き者をくじく精神のパクの生き様には、人間としての正義のあり方を教えられるような気がします。
キム・ジョンスク(キム・オクビン)記者との接触
この作品で重要な女性記者を演じたキム・オクビンは、役作りのために実在の人物に会って取材していました。
キム・オクビンが演じたキム・ジュンスクの実際のモデルでは、MBC PD手帳のプロデューサーだったチェ・スンホMBC社長である。
直接チェPDに会って、当時キム・ヨンス少佐が情報提供したときのことを聞いたキム・オクピンは「容易ではない過程だった。"軍相互"というほどの強力な圧迫と制裁を受けていた」と語った。「とても容易ではない状況だったと思った。その過程を伝え聞きながら事件に対する態度を正した」と映画に臨んだ心を伝えた。
このため、キム・オクビンも役作りに余念のない心構えをして記者として登場しています。
最初のうちは家族ぐるみの付き合いやアットホームな職場だったのに、パクが不正を告発しようとする動きになれば、周りはたちまち手のひらを返します。
職場でパワハラを受けるようになると、周りの職員たちは見てみぬふりの上そっぽを向いて孤独においやられます。
官舎で暮らす妻にも風当たりは強くなり、娘は学校でイジメを受けて、父親1人のために幸せだった家庭は今ではいつ崩壊するかわからない風前の灯のように変わってしまいます。
もともと仕事も家庭も大事にしていたパクにはとても辛い毎日が訪れてしまうのです。
意にそまない部下がいれば家族もろとも徹底的に潰しにかかるという社会に怖気を感じました。
自分1人ならなんとか耐えられもするでしょうが、妻や娘まで巻き込まれてしまえば、私たちは長いものには巻かれるしかありませんが、生真面目なパクはそれにも反発します。
とうとう無実の罪を着せられたままカンは亡くなってしまい、世間からカンは過失を責められ、残された家族は悲嘆にくれて泣き崩れるしかありません。
自分の家族とカンの名誉と遺族を守るために、自分の身がどうなろうと国家の癒着のために人間の尊厳が崩壊するのは許せません。
パクはテレビの深夜ニュースを担当するジョンスクと会い、不正を暴露することを約束します。
ジョンスクへの告白
パクはジョンスクの「カメラには映さない」と言う言葉を信じて、今までの軍の隠ぺい体質の実態と航空事故のいきさつを正直に語ります。
しかし、ジョンスクはあくまでテレビ局の人間です。
テレビ局の人間が映像を残さない筈がありません。
その時の映像は知らない間に軍の関係者へと渡り、パクはまた軍から執拗に追いかけられます。
一度は裏切られたと感じてジョンスクを遠ざけようとしますが、それでも今の不正で腐りきった世の中を何とかしようと、パクはジョンスクの担当する番組の生放送に出演することにします。
軍の上司たちは彼を止めようと奔走しますが、テレビ局も巻き込んで匿ってもらい、本番当日、もうすぐ生放送の始まる時間が迫っている時間になって、テレビ局を目前にしたパクは上司たちに捕まってしまいます。
すべてを白日の下に・・
生放送の始まる時間まではあとわずか、パクは何としてでも番組に出て不正を暴こうとしますが、彼の周りは軍の関係者に囲まれて身動きもとれません。
ジョンスクも説得を試みようとしますが「一級機密」を白日の下にさらされるわけにはいかない関係者たちはパクに銃口を向けます。
絶体絶命のパクですが、番組は放送時間をむかえてしまい、番組もパクの努力も徒労に終わると思った瞬間、番組は始まり映像として残していたパクの告白が韓国中に流れます。
不正はすべて世間に露見し、軍の本当の状況が世間に知らされます。
すべてをかけたパクは個人対国家という対決に打ち勝ったのです。
『一級機密』まとめ
この作品の最期には「セウォル号」の事件の話も出てきますが、一番それを訴えたかったような気がします。
またまだ人々の心から消えてはいない事件もこのままでいいのかという問題提起のように思います。
不正は人間のすることですから多少はある仕方ない事柄ですが、それが大きな団体、ましてや国家単位に及ぶと大問題に発展します。
国民の生活をも揺るがす事態になりかねません。
実際に不正を糺した1人の英雄を通して、悪い種子を摘み取ることが大事なのだと教えてくれました。
どんな些細な不正であっても勇気を出して告発すれば賛同してくれる人々が現れることでしょう。
パクのような鋼のメンタルなんてとても真似できませんし、パワハラなんか受けたら私ならすぐ歯向うことをやめてしまうと思いますが、それでも自分の正しい道を信じることは大事だと思います。
過去にいた1人の勇敢な軍人の姿を通して、何もできないと諦めず、確固たる信念を持って生きて行こうという思いを抱かせてくれる素晴らしい作品だと思います。