『観相師』などで見せた妖艶な演技が得意のキム・ヘスと、韓国映画には欠かせない俳優となった『新感染〜ファイナルエクスプレス〜』のマ・ドンソクのコンビが笑いを起こす崖っぷち女優が人生を賭けた疑似妊娠・出産コメディ映画です。
加齢とともに落ち目になってきた女優とそのマネージャー(本業はスタイリストですが人材不足のために兼務している)のやりとりに笑って泣いて共感できる、今を生きる全ての女性たちに捧げる物語です。
(画像はhttps://gamja-blog.tistory.com/870より引用)
『グッバイ・シングル』あらすじ
年齢を重ね、徐々に人気が下がっていることに焦りを感じている元トップ女優のジュヨン。若手に押されて国内の賞レースにも参加できず、年下の彼にも浮気されるなど、公私ともに不調なジュヨンは世間に注目されるために妊娠を偽装する。独身である元トップ女優の突然の発表に世間は大騒ぎとなり、ベビー用品のCMなど新たな仕事が続々とジュヨンに舞い込んできた。調子に乗って暴走するジュヨンに長年の友人でスタイリストのピョングや事務所の社長とスタッフたちは嘘がばれないよう後始末に奔走するが……。
映画.comより引用
『グッバイ・シングル』見どころ
39歳になり、スタイル維持は完璧なものの、年齢と共に落ち目になってきた女優のコ・ジュヨン(キム・ヘス)。
女優として授賞式の出演の日にも魅力的な唇を作ろうとボトックス注射をするも、唇が腫れ上がり事務所から怒られ自宅待機を命じられます。
努力はしているのですが、年齢には勝てず「どうせ受賞しないから」と家で授賞式を見ているのですが、受賞女優に不満たらたらです。
受賞者の中に年下の自分の彼氏のジウ(クァク・シヤン)がいたことで、ジウの母親におめでとうの挨拶の電話をしますが、彼の母親からは「同世代だから」と言われ落ち込みます。
ジウに会えば「父親が会いたがっている」と言われ、プロポーズかと喜ぶものの単に父親が彼女のファンだというジェネレーションギャップに気分は消沈してしまいますが、彼の母親の誕生日祝いにはネックレスをプレゼントしてあげます。
すべては彼との幸せな未来のためでしたが、後日ジウが若い女性と二股をかけいてることを知り、女優のプライドにかけて怒るものの、彼女がしていたネックレスが母親の誕生祝に渡した物だと知り、ジウに愛想を尽かします。
女優としての人気も落ち目で男にも振られ、崖っぷち女優として頼れるのは「自分だけを信じて味方してくれる存在」だけだと思い至ります。
子供が欲しい宣言!
考えた結果、彼女は事務所のメンバーを自宅に招待して手料理を振る舞いつつ「子供が必要だ」と宣言します。
慄く彼女専属のスタイリスト兼マネージャーのピョング(マ・ドンソク)や、その妻サンミ(ソ・ヒョンジン)と社長(キム・ヨンゴン)、事務所マネージャーのミレ(ファン・ミヨン)たち。
ジョンヨンは「人生は短いの!だから今からは自分を絶対に裏切らない絶対的な味方━━子供が必要なの」と力説します。
そして自分の愛するペットのフレンチブルドックがもう15歳であり、看取るのは自分しかいないのだとも訴え、家族を作る意気込みを仲間に理解させようとします。
最初は養子縁組を考えますが、落ち目で独り身の女優にはなかなか困難なようです。
病院に行けば医者(アン・ジェホン)から「最近はいつ生理が来たか」と聞かれ、妊娠を想像して喜ぶジュヨンと心配するピョングですが、医者からの「閉経です」と言う言葉に愕然とします。
妊娠どころかもう自分には子供を産む資格さえないのだと途方に暮れた時、1人の少女に出会います。
あなたの子供を貰うわ!
中絶を考えて病院に来ていた中学生3年のキム・ダンジ(キム・ヒョンス)とたまたま出会ったジュヨンは、彼女の子供を引き取ることを提案します。
家で姉妹二人暮らしのダンジはいつも姉から邪魔者扱いされていて、妊娠を姉にも相談できずに1人で悩んでいました。
これを機会に姉から独立しようと考えて、ジュヨンの家に住ませてくれとダンジは頼み込みます。
にべもなく断るジュヨンですが、ダンジは「胎教のために母親の声を聞かせないと」と提案して、生まれてくる子供のためにジュヨンの声を聴かせるべく同居を決意して、胎教のための奇妙な同居生活が始まります。
ダンジには「私のことはジュヨン様と呼びなさい」と、あくまで自分が主人であると強要しながらも。
わがまま女優の胎教生活
落ち目とはいえ、もともと有名女優であるだけに彼女の自宅はプール付の豪邸です。
そこでジュヨンはダンジを人目につかずに安心して出産させるために、ヨガをさせたり体にいいダンスをさせたりしますが、巻き込まれたピョングはたまったものではありません。
しかし、幼馴染として彼女を突き放すわけにもいかず、2人と一緒になってダンス仲間になって踊ります。
女優としてわがまま放題に今まで生きてきたジュヨンは、周りの人々の助けで今まで芸能界に生き残ってこれたのにその有難みが全く分かっていませんが、悪い人ではありません。
ダンジと暮らして親しくなっていくうちに、ダンジが絵の才能がある学生で、お腹の子供の父親はゴルフの韓国代表として外国に行くということを知り、空港までダンジを送っていきます。
そこでダンジに思いの丈を彼に訴えさせ、彼女のストレスを発散させてあげます。
今までひとりぼっちで悩んでいたダンジにジュヨンは強い味方となっていたのです。
空港からの帰り道にジュヨンはダンジに「ジュヨン様じゃなくてオンニ(お姉さん)と呼んでいいよ」と打ち解けていきます(中学生からすると年齢的にはアジュンマ<おばさん>が正しいとは思いますが・・)。
しかし、ダンジの子供を引き取るなら自分が生んだことにしたいジュヨンは、自分が妊娠したとマスコミに発表してしまいます。
そして子供の父親は別れた年下の二股俳優だ、と名前を出してしまい、もう後には引くことができません。
ジュヨンは未婚の母として生きることを世間に知らしめ、お腹に詰め物をしてダンジが出産するまで過ごす道を選ぶのです。
『グッバイ・シングル』感想
最初は単なるコメディかと思っていたのですが、思ったより深い作品です。
中学生の妊娠を取り上げながらも笑いに持っていくところは流石の韓国コメディ映画ですが、その妊娠によって彼女の葛藤を上手く描いています。
中学生という時期は、体は大人へ成長していくのに心がついて来ていないままですが、その時期での突然の妊娠。
誰からも望まれない子を身籠ったことによる不安と、実の姉は彼氏に夢中で自分は蔑にされ、他人のジュヨンにしか頼るすべのない少女の心情はどれ程心細かったでしょうか。
しかもジュヨンは身近な大人の中で自分を心配してくれる唯一の人物だったのに、ダンジを子を産む道具としか考えていないような身勝手さです。
この作品の中で母親になろうとするジュヨンもダンジも自分勝手で、とても親となる資格があるようには思えません。
こんな環境でダンジはどう子供を産むというのでしょうか?
女優生命再び
ジュヨンが妊娠を発表したことにより、落ち目女優だった彼女が華々しく女優として再び蘇ります。
未婚の母となる妊婦のイメージを前面に押し出したことにより、次々とCMの依頼が舞い込み、遂には新作ドラマ「サイムダン」の主役である「師任堂」役までゲットします。
師任堂(サイムダン)色の日記|イヨンエ&ソンスンホン主演!感想・見どころ、キャスト相関図まとめ
以前はピョングがどんなに頼み込んでも相手にしてくれなかったドラマの主演とあり、ジュヨンの再起に本人は勿論、事務所も諸手を挙げての歓喜に打ち震えます。
このドラマのキャストに決まっていた二股男ジウの出演を、主演女優として拒否して憂さを晴らすことにも成功し、今また絶頂期を迎えたジュヨンに怖いものなどありません。
人生が好転していくジュヨンは恋愛も好調です。
もともと好感を持っていて、ダンジの胎教のために父親の声と思えと言っていたアナウンサーのチュ・ミノ(イ・ソンミン)とも、番組の対談から仲が近付き食事の約束までとりつけます。
こうなれば恋多き女としてジュヨンにはダンジの存在など関係なくなります。
大きなお腹を抱えていつでもミノアナウンサーと会うことしか考えていません。
今までは2人で行った病院の検診もすっぽかして、ダンジとの信頼に溝ができていきます。
ダンジには口酸っぱく「家から出るな」と言ったきり、自分は恋愛に興じ、2人の関係は徐々に悪化の傾向が強くなり・・。
こうなるとダンジも自分がジュヨンから必要とされているのは「子供を産む機能」であり、人間として扱われていないように感じてきます。
またダンジはまた1人で出産することを悩むようになります。
妊娠の嘘が大問題に!
ダンジがジュヨンの家から出てくるところをパパラッチに撮られててしまい、ジュヨンの疑似妊娠の嘘が世間にばらされます。
「未婚の母を目指す女優」から一転して「偽の妊娠騒動を起こした女優」としてジュヨンは一斉にバッシングを浴びます。
一夜にしてジュヨンは有名女優から一転してお騒がせな迷惑女優になってしまいました。
落ち目な崖っぷち女優よりも最悪の結果を招いてしまいました。
CMの違約金は20億ウォン以上です。
ジュヨンはマスコミからリプリー症候群(現実を否定して嘘が本当だと信じる反社会的人格障害)とみなされて非難の的になってしまいます。
元カレのジウは、リプリー症候群の女優からの被害者だと、加害者から一転して世間から同情されます。
ピョングと社長は各方面に土下座して許しを請いますが、ジュヨンだけは何一つ変わりません。
ダンジが外出したことを怒り、手料理を作っていつもの事務所メンバーやピョングの家族を呼んで食事会を催します。
ジュヨンの手料理の食事会は自分が不安になった時に1人でいたくないからなのですが、ピョングの妻サンミは長い付き合いでそれを知っていて、尚且つわがままばかり言う彼女に怒り心頭です。
違約金は自分が払うし、ピョングが大手から引き抜きの話が来ているのも知っているから遠慮せずに行けと大口を叩くジュヨンに、自分の夫がどれだけお辞儀をして回ったかの努力も想像しないのか!とサンミは食事にも手を付けず、子供たちを連れて帰ってしまいます。
そこでピョングも社長もジュヨンに言います━━「その金は本当に自分1人で稼いだと思っているのか?!」と。
いまさら気付いても覆水盆に返らずです。
ジュヨンは違約金を払い、自分の暮らしている豪邸を差し押さえられてしまいます。
家で1人過ごすうちに、自分の母子手帳(名義はジュヨンですが、受診者はダンジです)を見つめて、超音波の子供が成長していく写真を見つめていると、ダンジの走り書きに気付きます。
ダンジは母子手帳に「怖い」と書いていました。
そこでジュヨンはダンジの気持ちを一切理解してあげようとしなかったことに気付きます。
ダンジ、コンクールへ
絵を描くことが得意だったダンジは、大きいお腹のままで絵画コンクールに参加する道を選びます。
会場でも妊娠した中学生の参加を拒否されますが、ダンジの気持ちを知ったジュヨンが会場へ乗り込みます・・本当は謝罪会見をしなくてはいけないのに。
止める大人たちともみ合いながらもダンジの夢を諦めさせないために、ジュヨンはなんとしてでもダンジをコンクール会場に送り出します。
しかし、コンクールの絵を描いている最中にダンジは産気づいてしまい・・。
ピョングに抱えられてダンジは病院に向かい、無事健康な赤ちゃんを産みます。
3年後、ジュヨンは42歳になっても相変わらずです。
一緒に暮らしているダンジ親子と共にいつものメンバーに産婦人科の医師も加わって手料理の食事会を開催しています。
ダンジは大学受験に失敗してはジュヨンに怒られていて、彼女の夢がどんどん変化することにジュヨンは困惑気味です。
でもダンジの子供を大事にして一緒に育てています。
相変わらずのジュヨンは「男好きは卒業した」と言いつつも、その食事会にも「友達」としてミノアナウンサーを招待しています。
そして、他人ながらもダンジも男好きの女性として成長しているようです。
同じ家で暮らすと家族でなくとも似てくるようですね。
以前は疑似家族だったダンジとジュヨンですが、もう2人ともひとりぼっちの孤独を味わうことはありません。
お互いに必要とされているダンジとジュヨン、そして2人から愛される子供も一緒です。
『グッバイ・シングル』まとめ
ヒロインのジュヨンの破天荒ぶりには笑えます。
ドラマでイメージする我儘な女優っぷりには『星から来たあなた』を思い出すほどです。
星から来たあなた|キムスヒョン&チョンジヒョン主演!あらすじ・感想・キャストまとめ
けれどダンジの気持ちの変化には胸が打たれたました。
最初は妊娠しても実の姉が信用できず、他人の女優であるからお金持ちだという理由でジュヨンに頼り、そこから彼女の現実離れした行動力で信頼しますが、彼女が恋愛すると突き放されて付きまとう孤独。
わずか中学3年生でこんな苦しみを味わうなんて辛すぎます。
そして母子手帳に「怖い」と書いた時の彼女の気持ち・・「助けて」ではなく「怖い」と書いたダンジに悲しみと同時に強さを感じました。
大人だって最初の出産は誰しも怖いものです。
愛があって祝福されるから幸せを想像して出産するのであって、望まれないし産んだらその先自分の人生がどうなるか予測できない暗闇からの出産はどれだけ怖いのでしょうか。
それを誰にも助けを求められずに「怖い」としか書くことのできなかったダンジは孤独でどれほど打ちひしがれていたでしょう。
誰も助けてくれないのを知ったからこそ、強く生きていくという意思も感じられます。
だからこそ3年後のダンジはケロッとジュヨンと暮らしていて、男好きにまでなってしまったのでしょう。
母親って凄いなと思います。
どれだけ出産が怖くて不安でも、産んでしまえば誰よりも子供の味方になれるのですから。
ジュヨンも自分の子供ではないけれど、自分が守っていく存在ができて、相変わらずの性格でも変わったのだと思います。
子どもは自分の絶対的な味方ではなく、親が絶対的に守って育てていく存在なのですから。
これだけの大人に見守られてダンジの子供は素直でいい子に育っていくと思います。
自分を産んでくれた親、そして自分の子供たちや仲間に感謝しつつ暮らしていくことが大事なのだと学んだような気がします。