『師任堂(サイムダン)、色の日記』の韓流人気俳優ソン・スンホンが死神と人間の1人2役を演じ、『花郎』の人気女優Ara(コ・アラ)演じる死の影が見えるという謎の女性との拘わり合いを描いた異色のドラマです。
演出は『ボイス~112の奇跡~』のキム・ホンソンと『神様がくれた14日間』『イルジメ<一枝梅>』のチェ・ランという人気脚本家のコンビの手がけた作品とあり話題性も抜群でした。
特殊分野ドラマ「ジャンル物」が得意の放送局OCNとあり、様々な実在の事件をモチーフとした『ボイス』と同様に重い雰囲気もありながらも、コミカルな要素も交えたミリテリーラブロマンです。
最初は16話完結予定でしたが、人気のため2話延長して全18話となりました。
(画像はhttps://m.post.naver.com/viewer/より引用)
『ブラック~恋する死神~』あらすじ
死を予見することのできる能力を持ったカン・ハラムは、他人の死を見ることを恐れ、常にサングラスをかけて生活をしていた。そんなある日、新米刑事ハン・ムガンに出会い、自分の能力を利用してムガンと共に人々の命を救おうと決心する。しかしそんな中、ムガンは事件に巻き込まれ銃で撃たれてしまう。死んだと思われたムガンは、奇跡的に息を吹き返すが、実は彼の身体には死神ブラックが憑依していたのだった…。
公式ページより引用
『ブラック~恋する死神~』見どころ
もともと朴訥で純粋なハン・ムガン(ソン・スンホン)は殺人現場で死体を見ると吐いてしまうという警察官にはおよそ似つかわしくない刑事ですが、先輩のナ・グァンギョン(キム・ウォネ)に叱責されながらも刑事を続けることを諦めません。
ムガンはある事件を負うためにアメリカでの会計の仕事を辞めて警察官を続けていたのですが、皆から向いていないと言われます。
恋人のユン・スワン(イエル)や病院長の母親ジス(チ・スウォン)からも警察官を続けることに抵抗を示されますが、それでもムガンは刑事という仕事を諦めない目的がありました。
死が見える女性ハラム
カン・ハラム(Ara)は死が近付いた人間に影が見えるという能力を持っていて、人目を避けて暮らしています。
こんな生活が嫌で海外に渡航も考えましたが、飛行機に乗客全員に影が張り付いていて、飛行機が墜落すると騒ぎ立てて警察沙汰になってしまい、飛行機に乗ることさえもできません。
実際にその飛行機は墜落して、ハラムは離陸を止められなかった自分を責めるのですが、警察で出会ったのはムガンでした。
ムガンはハラムの能力を半信半疑で見ていましたが、彼女が死ぬと言う人間は数日のうちに死んでしまうことに気付き、その能力を生かそうと提案します。
自分も協力するので、特殊なその能力を人助けに使おうと言うムガンの言葉に触発され、ショッピングセンターで起きる射殺事件を阻止しようとしますが、その事件に巻き込まれて銃殺されてしまったのはムガンでした。
死神に選ばれしムガン
死神444は冷酷で傍若無人、すぐ「これだから人間は」と言う口癖のあるものの仕事は完璧な死神です。
444は自分の相棒である元人間のスドン(パク・ドゥシク)が死神としての使命を放棄し、人間界へ逃げたことによりコンビを組む完璧な自分も咎められることが許せず、スドンを探そうと躍起になります。
人間界へ逃げた死神を捕まえるのには拳銃が一番であり、刑事になりすますことが一番だと考えた444はムガンの遺体へ乗り移り、刑事と死神という二足の草鞋を履くことになります。
何者かがムガンの遺体から瞳を取り除こうとしますが、その時にはすでに444はムガンの体の中に入っていました。
蘇った遺体に驚く人物をよそに、444はムガンとして生き返ります。
実はこの時、444は「人間の生死に拘わってはいけない」という死神の戒律をすでに犯してしまい、ムガンの魂は死神に導かれることもなくこの世に彷徨ったままです。
444が自ら「死神ブラック」を名乗り、ハラムに言われるままに人間の生死に手を出すようにならずとも、この段階で444は取り返しのつかない大きな罪を犯していたのです。
常識はずれの死神
一時は死亡と診断されたムガンですから、精密検査などの入院を余儀なくされますが、444としては一刻も早くスドンを捕まえるために警察官としての仕事に戻って拳銃を手にしたいと渇望しています。
444の取った行動は病院からの逃亡でした。
下着も付けず、病因着の上にジャンパーだけ羽織った姿で病院から逃走しますか、逃走しながらもアクションもあり、下着を穿いていない設定のため、モザイク処理された映像は笑いしか起きません。
本人が真面目であるだけにますます笑えます。
車も免許がないのに運転したりして、ムガンの愛車が原型をとどめないほどにぶつけたりと、死神で完璧だったがために自己評価の高さが裏目に出ますが、自分では乗りこなせいてると思えているところが笑えます。
警察へ復職する前の期間にはテレビで刑事もの(『ボイス~112の奇跡』)ドラマを観て、自分は扱ったこともない拳銃の使い方が下手だと大言壮語したり、鼻につく物言いしかしません。
しかし、いつの間にか運転は上手になり、初めて撃った銃は実践もなくドラマで学んだにもかかわらず完璧な照準を射るという、完璧な能力を発揮します。
ただ一つ、おそろしく常識外れという以外には・・。
話題の俳優たちの共演
アイドルグループZE:Aのボーカルで最近では俳優としての活躍も目覚ましいキム・ドンジュンが御曹司のオ・マンスとして登場して、ハラムを自分が代表となったロイヤル生命という保険会社の存続のために雇います。
ハラムの能力で多額の保険料の支払いを防ごうという魂胆ですが、悪い人ではありません。
ハラムを祈祷師扱いし、ハラムからは社長と呼ばれていますが、いつしかハラムに恋心を抱くようになります。
刑事ムガンの恋人ユン・スワンには『トッケビ』での赤い服の女や謎の老婆として登場し、『花遊記』では犬の妖怪の秘書として強烈な印象を残したイエルが登場します。
ここでもまた彼女の役どころは複雑怪奇な様相を呈しています。
彼女には決して人に言えない秘密の過去があるという謎をはらんだ事情がありますが、ムガンへの愛は事実です。
死神007と416とブラック(444)
人間界でムガンとして暮らす444の家には毎日仲間の死神が訪れます。
444に憧れるラップ好きな若手の死神416(イ・ギュボク)と、誰も彼がいつから死神だったのかも知らないという、古参の死神007(チェ・ジェヨン)です。
実は2人の死神がムガンの家を訪れるのには「テレビを観る」という理由があります。
勿論仲間のムガンを心配してですが、特に007は大の時代劇ファンで時代劇を観るためにムガンの家を訪れていると言っても過言ではありません。
416が歌番組を見たがっても、先輩として頑としてチャンネル権は渡しませんが、残念ながらムガンの肉体がないと肉体のない自分たちではリモコンを押せないのです。
毎日テレビのために押しかける2人の死神ですから、444の変化は誰よりも気付きます。
自分を「ムガン」でも「444」でもなく「ブラック」と名乗るのをただの男友達としてカッコいいと喜んだりしていますが、だんだんと人間らしくなっていく彼に不安を覚えていきます。
遂には444が死神ならば決して見ない「夢」でムガンの夢を見ることになったのを知り、彼が人間に近付いて行く予感を覚えます。
ブラックが死神らしさを失い、人間らしくなり、ムガンの恋人だったスワンではなくハラムに恋心を抱くようになるのを感じ取っていきます。
最終的に007の嫌な予感は的中し、ブラックは死神として選んではいけない道を選択するのですが━━。
『ブラック~恋する死神~』キャスト相関図
『ブラック~恋する死神~』感想
このドラマは後半の切なさ、悲しさが止まりません。
ジャンルドラマを得意とするOCN独特の雰囲気が後半に集結しています。
そんな事実は予想さえもしなかったという独特さに感情を揺さぶられます。
前半あんなにコミカルだったのに、後半、そしてラストにかけての人々の心の闇やそこから派生した悲劇はOCNの醍醐味ではないでしょうか。
ブラックの意味
444が自分の名前を「ブラック」にしたのはハラムに誘われた仮装パーティーで用意された衣装のためでした。
ハラムは示し合わせてはいなかったのに、オ・マンスとお揃いの「シュレック」の緑の衣装で参加してマンスとカップルのような出で立ちになってしまいました。
招待されていないムガンにハラムが選んだ衣装は「ジョーブラック」の衣装で、ご丁寧にピーナツバターまで用意している周到ぶりです。
死神に死神の仮装をさせるなんて、ハラムは実は彼が何者かを知っていたのではないかと思うほどです。
その衣装を気に入った444は自らは「ブラック」と名乗るようになります。
前半はこんな冗談が多くて楽しく観ていられますが、物語が進むにつれ、過去からの繋がりや恩讐など様々な絡まった糸がほどけたり縺れたりして、悲しみがこみあげてきます。
後半には辛く複雑な人間関係がますますよじれて笑いは無くなっていきます。
こんなに前半と後半にギャップのあるドラマも珍しいと思いました。
死神は人間だった
ハラムが未だに知り合いの死を防げずに後悔している20年前の商業施設タイムマートの爆発事故では未だに行方不明の当時の中学生たちがいます。
タイムマートの跡地から身元不明の遺体が見つかったとして、当時行方不明で処理された親たちはそれが自分の子供ではないのかと一縷の望みを持って押しかけます。
ハラムも近所の親しいお兄さんを亡くして身元の確認に訪れますが、それはお兄さんと仲の良かった友達でした。
その遺体の身元の解明と共に死神416の姿はその遺体として発見された少年へと変わっていきます。
007曰く「死神はすべからく元々人間である。遺体の見つかっていない魂が死神となり、生存した記憶を忘れ去って今死にゆく者の案内人として存在しているのだ」と。
死神の番号は死んだ日の番号でした。
しかし、007や444はどう考えても死んだ日の番号とは思えませんが、古参の007が言うからには間違いではなさそうです。
自分の遺体が見つかると死神としての借りの姿ではなく、元の姿に戻るのだと。
ということは、ブラックも元々人間だということです。
そして、ブラックの本体も誰にも見つかっていないどこかにあるのですが、ブラックがムガンの体から出られない理由も自分の死に関係があるようなのです。
正直、この直前に日本の「ところで死神はどこから来たのでしょう?」という小説を読んでいたので、背筋が寒くなりました。
日本の小説と韓国のドラマの違いはありますが、死神のなり方の設定があまりにも似ていたからです。
どちらがアイデアをパクったなんて時期的にありえませんし、別の国の人間が同じ発想をしたなんて何かの思召しかと空寒くなりました。
絡まりあった糸の真相
事件はすべて20年前のタイムマート爆破事件の頃から始まっていました。
ハラムは父の死を感じ取りながらも父を殺され、死の影に脅かされて生きてきました。
幼い頃にハラムの初恋だったジュンがムガンだと思ったり、色々な糸が絡まっています。
007は彷徨うムガンの魂を救ったりしてブラックをなんとか助けようとします。
20年前にジュンはムガンの母親の手で殺されていたのです。
ムガンと父親が同じだったジュンは、病のムガンを助けるために彼の母親から人体移植をすべく殺され、自分の体の一部が残ったままだった体がブラックのジュンの魂を感じ取り、離してくれなかったのです。
ブラックはムガンの一歳違いの兄弟だったのです。
何も知らずに育ったムガンは20年前に見た凄惨な暴行の現場が忘れられず、その真相を解明するべく刑事になったのですが、結果は自分は亡くなってしまい、恋人だったスワンがその暴行の被害者でした。
ブラックがムガンの体を選んだのも、最初から刑事に固執したのもすべてムガンの意志を継ぐためだったようにしか思えません。
ブラックが愛したハラムが自分を想い出して悲しくならないように、ブラックは自分の存在価値さえ無くしてしまう決断をします。
死神として「人間の生死に拘わった」だけではなく「殺人まで犯した」罪をブラックは天から問われます。
そこでブラックは最悪の選択「消滅」よりも重い「自分の存在すべてを消し去る」ことを要求します。
『ブラック~恋する死神~』まとめ
この『ブラック~恋する死神~』のラストほど悲しいものはないと思います。
すべてはブラックのいない世界にもどり、ハラムは死の影を見ることもなく女性ながらも消防団員として成長します。
死の影など一切見えず平凡にマンスと結婚して一生を終えますが、あれだけ強く愛したブラックの姿はありません。
ハラムが一生を終えてからやっとブラックと出会うことができるのです。
平凡な人生が一番いいとは思いますが、愛した人を覚えていないまま生きる人生は辛すぎます。
そこに愛した人を失くした悲しみがないとは言えども、与えられた偽の人生のように思えてなりません。
平凡に生きながらも物足りない空虚さをハラムは感じていたのではないでしょうか。
だから、生を全うした後に会ったハラムとブラックには悲しい愛情が感じられたように思います。
私たち平凡な人生をあゆんでいるとこんなドラマみたいなことは決して起こりませんが、愛しく思う人がいるなら「好きだ、愛している」と言っておきたいですね。
明日は何が起こるか誰にも予測できません。
今大事に想う人がいるなら、その人に本心を伝えていれば、もし離れてしまったとしても後悔は少ないでしょう。
人間は今を生きているのですから。